大きなケヤキの木の下で

ちょっと前の話なんだけど

車検が終わって車が返ってきてから、駐車場の場所を変えた。ちょうど家の近くに空きが出たのだ。ケヤキの下の雰囲気の良いところだった。

今までのところも、後ろが小さな芝生になっていて、自転車の整備なんかするのにちょうどいい、ゆとりのあるところで、悪くはなかった。

しかし、若干遠くて、手ぶらで歩く分にはいいけど、荷物が多い時など、大変だった。家の前まで車をつけようか、どうしようかいつも迷う。というのも、家まで来るには、ぐるりと迂回しなくてはならなくて、歩くのも大変だが、車もまあまあ面倒なのだ。なので、たいていは妥協案として、家からほどほどのところに車を止めて、荷物を担いで運ぶという中途半端なことをしていた。

そんな小さな悩みからようやく解放される。同じURの敷地内なので、手続きにお金はかからない。こんなにあっさり見つかるなら、もっと早く管理事務所に相談しとけばよかったかな、なんて思いながら。新しい場所に車を移す。車から降りると、頭上には大きなケヤキの木。うん、良いところだ。

……と、こんな駐車場の話はここで終わる予定だった。

1~2週間ぶりに、タントを乗りに行った。駐車場を変えて家から近くなったというのに、乗る機会は減っていたのだ。

久しぶりに見たタントはめちゃくちゃ汚れてた。
一瞬何が起こったかわからないくらい、長い車生活で初めての汚れ方だった。

誰かのいたずら?いや、ふしぎとこの汚れ方は、年季の入った汚れ方で、人の仕業には見えなかった。
ときどき、すんごい古い車がこんな感じで置いてあるのを見ることがある。持ち主のおじいちゃんがもう乗らなくなったのか、亡くなられてずっと放置されてるような車、これはそんな汚れ方だ。

黒っぽくすすけて、さらに苔のような緑味までかかっている。大げさに言うなら、ラピュタに一人取り残されて墓守をしている、肩に苔の生えたあの巨神兵のような感じ。まだ、ほんの10日くらいなのに。時間の感覚がくるってしまう。


なんでこんなになったんだろう。そしてこれはどうしたらいいんだ?
困って空を見上げると、そこには大きなケヤキの木がある。
その時ようやく、納得した。多分、季節でケヤキは樹脂かヤニにのようなものを飛ばすのだろう。それが車に付着して、その粘着力であらゆる塵とホコリと汚れがくっつき、蓄積する。ほんの10日で10年の汚れを演出できるほどに。

公園でケヤキの下のベンチに座ってると、とても気分がいいから、駐車場にあったら、車のシートに座ってるだけでもいい気分だろうななんて思ってた。

それが、こんなに汚れるなんて思いもよらなかった。

しかもヤニがべたついて、なかなか汚れが落ちない。たとえ汚れを落としたとして、まだヤニが降って汚れるかもしれない。たとえヤニの時期が終わったとして、また春に降らすような気もする。これは結構大変なことになってしまった。

どうしていいかわからずに、いまのところ徒歩に暮れている。

追伸

車の屋根が地面に見えたのかもしれない。カマキリの子供が乗っかていた。


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