「雑草を育ててみたい」路地で見かけた雑草の鉢植えをきっかけに始まった、2018年の雑草栽培実験。カラスノエンドウからフウセンカズラまで、ワンシーズンの試行錯誤の記録です。


ヒナゲシについて書いているうちに、以前、雑草を実験的に育てていた頃のことを思い出した。当時の記録を探してみると、ホームページ移転前のWordPressのブログに残っていた。
7年も前のものだから、記憶は薄れていて、読み返したら意外と発見があった。最後の方はかなりグダグダした感じになってしまったけれど、せっかくの実験したのだし、埋もれさせておくのはもったいない気もする。
そこで、内容を読みやすく整えて、ここに改めて記しておくことにした。
2018年の観察日記
お店の行き帰りや買い物の帰り道、あるいはただなんとなく散歩をしているとき、谷中界隈の路地を歩いていると、よその家の玄関先に並ぶ植木鉢に目がいく。
ゼラニウム、アロエ、シクラメン、キクなど、さまざまな植物が並んでいる。珍しいものだと、地植えのジャスミンやアケビ、トケイソウなども見かける。その中で、ふと雑草しか生えていない植木鉢を見つけた。荒れ具合から想像すると、かつて別の植物を育てていて、それが枯れた後に放置されたら、雑草が伸び放題になってしまったものだろう。
気にも留めずにいたけれど、季節によっては、その雑草が目を引くほど綺麗なものになることがある。特に春、ヒナゲシが鉢の中で群生していた時などは、隣に置いてあるどの植物よりも美しく見えた。そうか、自分もこういうのが育ててみたかったんだ。
種と植木鉢
いつか何かに使おうと、種は小袋に入れてストックしてある。ヒナゲシ、ネコジャラシ、タンポポ、麦みたいなやつ、カラスノエンドウ、そして雑草ではないけれどフウセンカズラ。これだけあれば、まずはいいだろうか。





次は入れ物だ。大きいプランターにドバっとまいて、寄せ植えみたいにするか——。でも、あいつらは気を緩めるとすぐに荒っぽくなるからな。もしゃもしゃと生えてきて、どれがどの葉っぱだかわからなくなることも考えられる。それに、虫だって湧くだろうし、中には他の植物が育たないように化学物質を出して、自分だけ大きくなるものもいるという。
ちゃんと全種類観察したいので、やはり一つの鉢に一種類の種を蒔くことにしよう。ここでも、いつか何かに使うつもりでとっておいた空き缶の類が役に立った。
種まき

言われてみると、雑草の種まきの時期はいつだろうか。全く知らない。普段、雑草たちはどうしているのだろう。
雑草といっても色々あるけれど、たとえばタンポポ。これは春に花が咲いて、初夏に綿毛になり、それがどこかに飛んで行って地面に落ちる。じゃあ夏に蒔けばいいのか?
ヒナゲシはどうだろう。これも春に花が咲いて、終わると房が膨らんで種ができる。そして根元にバラバラと落ちる。ということは、やはり夏に蒔くのが正解なのか。しかし、春の花を夏に種まきするなんて、あまり聞かない話だ。土の中で種が腐ったりしないのだろうか。
それに、夏に蒔けと言われても、いま2月だし。どうしようか。とにかく、蒔くのであれば早いほうがよさそうだ。
そう言いながら、そうしているうちに2月は雨続きで逃してしまった。だいぶ遅れた感はあるけれど、3月初旬の暖かい日、ようやく雑草の種を蒔いた。
4月初旬
発芽
1か月ほどたって、芽が出てきた。なんともかわいいやつらよ。カラスノエンドウと、麦みたいなやつを蒔いた鉢だ。ただ、葉っぱの形が違うように見える。もしかしたら、土に眠っていた別の種が出てきたのかもしれない。ちゃんと形の分かる本葉になるまでは、まだ何が育つのか分からない。
紙で作った名札が、雨に濡れてフニャフニャになってしまったので、板に書いて作り直した。名札をつけると、ふつふつと愛着がわいてくるのが不思議だ。


4月中旬
カラスノエンドウ

それらしいツタを伸ばし始めた。ちょうど今日、種子の採取場所である駐車場を通ってきたら、同じような葉っぱが生えていた。これでようやく、自信を持ってこいつをカラスノエンドウだと呼べる。
麦(みたいなやつ)

こちらも葉が伸びている。しかし正体はまだわからない。こいつは夏の草だと思うので、あのかっこいい葉っぱが見られるのは、もう少し先になりそうだ。
タンポポとヒナゲシ

サクマドロップの缶に蒔いたタンポポと、Bカレーの缶に蒔いたヒナゲシは、まったく芽が出ない。両方とも、道端では今が盛りと咲き誇っているから、もしかすると、もう出てこないかもしれない。種まきが遅かったのだろうか。
フウセンカズラ?

トマトジュース缶にも、いくつか芽が出てきた。しかし、蒔いた種の数より多い気がする。つまり、フウセンカズラではないやつがいるわけだ。敵の忍者か。油断はできない。
4月下旬
カラスノエンドウ

しなやかにツタが伸びている。駐車場のものより、葉が繊細でかわいい。小さい鉢で育てている成果だと思う。
麦(みたいなやつ)

こちらも、すくすくと成長中だ。ホタテのような貝殻が手に入ったので、鉢にトッピング。これでカルシウムが摂取できるだろう。きっと将来は背が高くなるぞ。
フウセンカズラ?

素性の知れない草が、ぽつぽつと増えていく。ほぼ、敵の草で間違いない。
タンポポとヒナゲシ


サクマドロップとSBカレー、二つの缶からようやく芽が出てきたが、おそらくこれも敵の草だろう。しかし、今は抜かずに泳がせておく。意外に、薬草とか使える草が生えてくるかもしれない。
5月初旬
カラスノエンドウ

葉っぱの色が、若い緑から褐色を帯びた緑に変化してきた。大きさはあまり変わらないので、成長もここで一段落かもしれない。駐車場のカラスノエンドウが、いつの間にか消えて、他の草に取って代わられている。やはり春先の草なのだ。
麦(みたいなやつ)
思ったほど大きくなっていない。ただ、葉っぱの色が鮮やかな緑なので、これからの成長に期待できそうだ。
ヒナゲシ?
何か芽が出ているけど、小さくてよく分からない。
タンポポ(タンポポではない)

サクマドロップから伸びてきた草が大きくなってきた。何の草だろう。たぶんタンポポではない。缶の口に対して葉っぱが大きいから、窮屈そうだ。でも我慢してもらう。
ネコジャラシ


ミルクピッチャーとアルミのプリンカップに蒔いたネコジャラシは、いっこうに芽が出ない。出てくる気配もない。そこで、他の所から取ってきて移植することにした。


採取したのは、お店の前に生えていたネコジャラシらしき草だ。確か3年くらい前に、この辺にムラサキエノコロの種を蒔き散らしたおぼえがある。これがその時のやつだったら、かなり嬉しい。急に場所が変わっても、根付いてくれるだろうか。少し心配だ。
フウセンカズラ?

トマトジュース缶からは、いろんな芽が出てきている。入れ物が大きくて土が多ければ、種類もたくさん含まれているということか。何が生えてくるか分からないので、好きにさせておく。ちょっと楽しみになってきた。まさかトマトは生えてこないよな。
5月上旬
カラスノエンドウ

このところの初夏の日差しで、少し枯れかかっている気がする。やはり暑さには強くないようだ。
麦(みたいなやつ)
大きさの変化が見られない。もっとぐんぐん伸びていくものだと思っていた。そして若干、葉の色が薄くなってきている。成長が止まったのだろうか。とにかく、実をつけるまで頑張ってほしい。
タンポポ(タンポポではない)

タンポポではないけれど、小さな花が咲いた。たいして綺麗ではないのが、いかにも雑草らしい。いつか図鑑で名前を調べる予定だ。
ネコジャラシらしき草

移植して数日たった。まだ枯れていないということは、根付いたと見ていいだろう。
フウセンカズラ?

数種類の芽が伸びている。ここはさしずめ雑草のバラエティーパックだ。一番大きな葉がタンポポっぽい形をしている。もしこれがタンポポだったら嬉しいな。まあ、ここにタンポポの種は蒔いていないけれど。
ヒナゲシ?

得体の知れなかった芽が、どこか見覚えのある形になった。ほんのりとしたギザギザの葉に、うっすらとした産毛。もしかするとヒナゲシか。もう生えてこないかと思ったけど、とうとう来たかヒナゲシよ。信じるものは救われる。
いや、本当は全然信じていなかった。どこかの馬の骨が勝手に生えてきやがって、と思っていた。それでも生えてくる雑草の懐の深さ。嬉しい。
5月中旬
カラスノエンドウ
真夏のような日差しで、カリカリになってしまったので、ひとまず退避させた。
麦(みたいなやつ)

葉っぱは高くならないが、量は気持ち増えている気がする。夏の草なのだから、まだこれからだ。
ヒナゲシ?

あまり大きくなっていない。春の花だけあって、この日差しはきつそうだ。がんばれ。
フウセンカズラ?

ここにも謎の花が咲いた。それ以外の葉っぱも、俺も俺もと伸びていく。本当にこの缶の中は元気だな。
ネコジャラシ(移植)

こんなに入れ物が小さいのに、ちょっと伸びている。さすが真夏の草、ネコジャラシ。二人並んで背筋をスッと伸ばしているようで、本当にこいつらはかわいいな。
そして、大きいほうのネコジャラシはと見ると、あれっ、……ない! 枯れちゃった? でも、この茎がちょろっと残っている感じは、枯れたんじゃなくて、食われたのか? 誰に? 鳥か。そりゃうまいだろうよ。おれが育てたムラサキエノコロだからな。
悲しい。小さいほうが食べられないように、対策を考えないと。ちょうどいいところにあったのがこの金網。もし、これをひっくり返すほどの怪鳥だったらお手上げだ。

5月下旬
麦(みたいなやつ)

緑の葉に混じる枯れ草が気になる。まるで40代の白髪みたいだ。けれど、まだまだ元気だと思いたい。
カラスノエンドウ

カリカリになって枯れた横から、何かの芽が出てきた。
ネコジャラシ(移植)

チビジャラシが無事に成長している。金網も役に立っているみたいだ。そして、かじられて無くなったはずのネコジャラシが復活している? 残った茎から葉っぱが出てきた。すごい生命力。雑草万歳!
フウセンカズラ?

ちょっと見ていないうちに、何やら変な葉っぱが出てきた。こんな雑草、見たことがないな。色も若草色で、雑草らしからぬ美しさ。そこがまた怪しい。
それにしても、何の兆候も見せずにいきなりこんなに大きくなっているとか、怖いんですけど。本葉の下にある双葉も、二の腕みたいで気味が悪い。見ていると胸がざわざわする。
6月上旬
ネコジャラシ(移植)

チビジャラシが入れ物の3倍くらいの背丈に成長した。よくもまあ、こんな小さなところで。感心感心。初めは葉っぱが紫色だったので、ムラサキエノコロかと思っていたけど、すっかり緑色の葉っぱが生えてくるようになった。いったいどっちの種類なのだろう。
カラスノエンドウ

横から出てきた芽が成長中だ。わりと見たことある草で、普通の雑草だろう。
フウセンカズラ?

ぬら~と茎と葉が伸びている。こいつはいったい何なんだ。本当に気味が悪いな。けれど、やはり正体は知りたい。
とりあえず、育てて様子を見ることにする。そうと決まれば、土の養分をこいつに集中させるため、横の雑草を引っこ抜いて、鉢の中をすっきりさせる。抜いた草をひっくり返すと、赤みがかってホウレンソウみたいだった。もちろん、食べないけど。


蜂
庭仕事をしていて、何度か蜂を見かけるようになった。この近くに巣でもあるのかな。最初はびっくりしたけど、大人しい足長バチだから問題なさそうだ。
念のため、蜂が来たらこちらの作業をいったん止めて、一歩離れて見守ることにした。蜂は一直線に木箱まで飛んできて、そこに止まる。そしてガリガリと木をかじる。2〜3分やると気が済むようで、何事もなく帰っていく。たまにフンをしていくこともある。
毎回毎回、同じ行動だから、何か理由があるんだろうけど。合板を削って巣作りの材料にしている? それとも、歯でも研いでいるとか? あるいは、合板の接着剤を蜜と勘違いして採取している説? よく分からない。

6月中旬

麦(みたいなやつ)

たいして大きくもならず、枯れ草だけが増えているような気がする。
ネコジャラシ(移植)

少しずつだけど、大きくなっている。毎回、見るのが楽しみだ。
カラスノエンドウ
いつの間にか横の芽がなくなっていた。また鳥に食われた? この草は別に気にしない。
ヒナゲシ

かろうじて生きているけど、育ちそうにない。やはり、蒔いた時期が遅かったんだと思う。
フウセンカズラ?

梅雨の谷間の晴天で、土が乾いている。水が足りないのか葉がしなっている。たくさんあげておこう。こいつはよく水を吸うタイプらしい。
6月下旬
麦(みたいなやつ)
あまり元気がない。もうだめかもしれない。
ネコジャラシ(移植)

雨続きで、チビジャラシが枯れかかっている。日差しと乾燥には強い分、湿気が苦手なのか。大きいほうはまだ元気だ。
ヒナゲシ

こいつは逆に、ほんの気持ち伸びている。もう伸びることはないと思っていたけれど。雨で気温が低いのが良いのかもしれない。
フウセンカズラ?

水はたっぷりあるのにグデンとしているな。大丈夫か。心配だ。
7月上旬
ネコジャラシ(移植)

水びたしで、とうとうチビジャラシが枯れてしまった。あとは大きいほうのネコジャラシに託す。
フウセンカズラ?

ほかの草がほとんど元気がない中、しっかり葉っぱを増やしている。この形、セロリやパクチーなどの香味野菜のようにも見えてくる。最初はあれだけ気持ち悪かったのに。しかし謎だ。
7月下旬
ネコジャラシ(移植)

移植してきたネコジャラシは、なんとかここまで育った。
麦(みたいなやつ)

完全に枯れたわけではないけれど、まったく伸びがない。ここが限界だろう。
フウセンカズラ?

ひょろひょろだけど、随分伸びてきた。先っぽからツルのようなものを出しているから、これはツル草の一種か。小さい花まで咲いた。ちょっとした満足感。
8月
ネコジャラシ(移植)

元気なのは猫じゃらしだけになってしまった。
10月
しばらく、雑草の植木鉢をほったらかしてしまっていた。ほとんどの雑草は思ったほどは育たず、そして望まれず育ってきた謎の草も、可憐な花が咲いて逆に不気味さがなくなり、一段落してしまった。正体はまだわからないけれど、そんなに驚く草でもなさそうだ。時々、乾いていたら水をやる程度で、目には入るけど気にはとめない感じ。というか、すっかり飽きてしまった。
それからしばらくたって、10月。

随分涼しくなって謎の草もすっかり枯れていた。夏の草だったのだからそんなものだ、と振り返ることもなく、打ち捨てるつもりだった。枯れ草をつかむと、葉っぱの下に何かある。なんだこれは。風船のようなふくらみ。
これは……、フウセンカズラ! ずっこけそうになった。そうか、おまえだったのか。 すっかり忘れていたよ。確かに種は蒔いたけど、先にいろんな雑草が生えてきたから、もう芽は出ないものだと思っていた。
気持ち悪い葉っぱが出てきたとか、不気味な草だとか、そういえばひどい言いようだったな。どんな未知の草が育つのかと、胸をざわつかせていたけれど。一番自然な決着。フウセンカズラを蒔いて、普通にフウセンカズラが育ってたのか。
じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。 種は、種はあるだろうか? 収穫できた風船は全部で3つ。その内、小さいやつは発育不良気味。 やはり種まで獲れて初めて育てた実感がわく。
まずは小さい風船を開けた。 種は、あった。 でも、小さい! かろうじて目視できるゴマ粒くらいの種。芽は出そうもない。これじゃだめだ。
じゃあ大きい風船は? おそるおそる開いた。 丸い種が房に2つくっついていた。ひっくり返すとサルの顔をしている。フウセンカズラの種だった。 確か、始めに蒔いた種も2つだった気がする。ちゃんと蒔いた分返ってきたんだ。
なんだかよく分からないけど、嬉しい。 やっぱり雑草には夢があるな。


追伸
もし、また雑草を蒔くとしたら…… 土は多めに。蒔く時期は早めに。

入れ物が小さく、土が少ないと、気候が直に跳ね返って、草がすぐにダメになってしまう。梅雨時の水と、真夏の日差しは、雑草といえども生きていくのは大変。もっと図太いやつらだと思っていたけれど、そうではないらしい。
また、種は土の中で寒さを感じて目覚める、という話も聞いたことがある。やっぱり蒔くなら冬が来る前、ちょうど今くらいが良いのかもしれない。準備だけは整えておこう。やるかどうか分からないけれど。
おわり